伊豆・三津シーパラダイス(静岡県)|フンボルトペンギンの仲良し家族
2017/06/02
目次
淡島を背に駿河湾の沿岸を20分ばかり歩いた。完璧な向かい風にやられ、足取り軽くとは行かないが、心持ちはとにかく軽やかだ。透明度の高い海は青く、波は穏やかで、海鳥が空を賑わしている。
水族館が好きな方には、お分かりいただけるだろうか。「あわしまマリンパーク」と「伊豆・三津シーパラダイス」、2つの水族館が徒歩圏内にあるというこの喜びを。
岩窟のフンボルトペンギン
「みとしー」の名で親しまれる伊豆・三津シーパラダイスは、駿河湾の奥の内浦湾に位置し、風が強い日でも海が荒れることは少ない。湾内の一部は「自然飼育場」として、イルカやアシカ、アザラシ、ペンギンなどに解放されていて、彼らの暮らしぶりは野性味に溢れている。
フンボルトペンギンの親子愛
自然の岩場を利用したフンボルトペンギンの住処は、高低差のあるつくりになっている。もちろん潮の満ち引きも自然のままだ。およそ15羽のペンギンたちは家族をつくり、各々が気に入った住まいで暮らしている。
岩場の隅で、家族団らんのひとときを過ごすフンボルト一家に密着した。くちばしを器用に使い、父が母を、母が子を羽づくろいしている。この深い結びつきを「家族愛」と呼ばずになんと呼ぼう。
羽づくろいの間はリラックスした表情を浮かべる3羽だが、親が警戒を怠ることは決してない。少しでも怪しい気配を感じれば、たちどころに威嚇を開始する。たまたま近くを飼育員さんが通りかかっただけでこの表情だ。
「給餌途中で自分が来ちゃったものだから、怒っているんですよ。」飼育員さんは、ちょっぴり弁解するかのように私に教えてくれた。そうして親鳥に「ごめんね」とつぶやくと、足早にバックヤードへ消えていった。
親の心配をよそに、ヒナはクリクリとした目を輝かせて終始ご機嫌な様子だった。
ピチピチ鮮魚宅配便
小高い岩場に素敵な一軒家が立っている。トタンでできた外観はいかにも頑丈で、私がもしフンボルトペンギンなら迷わずこの家を選ぶだろう。
飼育員さんが訪問すると、トタンハウスの主がちらりと顔を覗かせた。新鮮なアジを手渡され、ごくんと頭から丸呑みする。豪快な食べっぷりは実に気持ち良い。
ケープペンギンとフラミンゴのシェアハウス
1つ屋根の下で
大勢のケープペンギンに混ざって、1羽のチリーフラミンゴが羽に顔を埋めて眠っている。一緒に住むようになった経緯は定かでないが、彼らは今のところ上手くやっているようだ。フラミンゴはペンギンにあまり興味がないようで、逆もまたしかり。姿形や仕草に似通ったところは少なく、同じ鳥類とはにわかに信じがたい。
フラミンゴが目覚めたようだ。
ペンギンもつられて目を開けた。
フラミンゴはダンスを始めた。
ペンギンは少し興味を持った。
フラミンゴの足は長い。
ペンギンは踏まれないか心配だ。
フラミンゴは大地にしっかりと立った。
ペンギンはもうその存在を忘れている。
並ぼう!お魚待ちの列
こんなにも静かなペンギンの食事風景を目にするのは、初めてかもしれない。ケープペンギンたちは、日本人さながら列を成してお魚の配給を待っている。しばらくすると列は崩れ、ちょっとした小競り合いが起こったが、それでも静かなものだ。
魚が一度床に落ちてしまうと、ペンギンたちは食べる気を無くしてしまう。新鮮でないと判断するのか、あるいは魚を拾い上げる作業が億劫なのか。本来、野生のペンギンは泳ぎながら魚を捕まえるのだから、陸での食事は慣れていないのだろう。
飼育員さんは床に落ちた魚を拾って水で洗いなおし、口元に持っていってあげる。それを何度か繰り返し、やがてペンギンたちのお腹は満ちる。
フラミンゴの食事はというと、ペンギン以上に静かなものだった。
3時だョ、全員集合!
午後3時頃、一斉にお食事タイムが始まると、動物たちの鳴き声で湾全体が急に騒がしくなった。空には招かざる客人の姿がある。ウミネコや鵜などの海鳥が、海獣たちの餌を狙っているのだ。
岩窟近く橋の下で空を仰いでいるのは、日本では数カ所の水族館でしか見られないキタオットセイ。橋の上からお魚が降ってくるのをじっと待っている。
群れを成して泳ぐのは、カリフォルニアアシカたち。なわばりの主であるオスは複数のメスと交尾し、ハーレムを形成する。
食後はびっくりするほど大きな声で鳴き交わしていた。
陸で寝そべるアザラシは、どうしてこんなにも可愛いのだろう。彼らは陸上では芋虫のようにピョコピョコと跳ねて移動し、水の中では人魚のように滑らかに泳ぐ。
岸から離れると水に戻るのが億劫なので、陸上では水際で休んでいることが多い。岩と間違えてうっかり見過ごさないようご注意を!
番外編:伊豆・三津シーパラダイスのおすすめ展示
2017年の今年、伊豆・三津シーパラダイスは40周年を迎えた。個性的なショーや水槽の展示に、ここならではの魅力が詰まっている。記事の結びに、心に残った幾つかのシーンをご紹介しよう。
書道家アシカの筆さばき
沢山の海の生きものが出演する「ショースタジアム」。中でも印象に残ったのが書道アシカのグリルだ。口に咥えた筆から生み出される文字は力強く味がある。
この日書いたのは「幸」の一文字。鼻先で朱印を押した書は、任意で選ばれた1名にプレゼントされた。
気分は潜水士!いざ、海中の冒険へ
駿河湾海溝の深さは最大2,500メートル。その深さに応じて住人の顔ぶれを異にする。
水族館の室内では入り口付近を「ちょい底」=浅瀬、奥を「DON底」=海底と見立て、水深別に生き物を展示する。観客が海にダイブして、徐々に海底に潜っていくかのようなワクワク感を味わえる仕掛けだ。
アオリイカとマイワシの水槽では、ときとして食物連鎖の瞬間に出くわす。
水槽内部の丸窓から顔を出して、ウツボになりきってみるのも楽しい。
富士を望む絶景ビューイング
日本一高い富士山の南に、日本一深い駿河湾海溝が広がる。淡島の奥にそびえる巨大な富士の頂きは、白い雪で覆われている。
この絶景を見ずして、伊豆・三津シーパラダイスを去ることなかれ。風が雲を呼び込む前に、その目に雄大な景色を焼き付けよう。
Text:水鳥 るみ(フリーランスライター)
伊豆・三津シーパラダイス(静岡県)の基本情報
下記の情報は、2017年4月現在の情報です。
●ホームページ
http://www.izuhakone.co.jp/seapara/
●営業時間
9:00~17:00 (最終入館は16:00)
※ゴールデンウィーク、夏期、年末年始などの多客時は、営業時間を延長する場合があります。
●入場料金
大人(中学生以上):2,200円
4才~小学生:1,100円
※詳細情報、WEB限定入場割引券については伊豆・三津シーパラダイスの公式ページへ
●アクセス
〒410-0295 静岡県沼津市内浦長浜3-1
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