
都心から電車を乗り継ぐこと1時間半、ようやく羽村駅に到着した。本日の遠征先は「羽村市動物公園」。東京で最も人口が少ない市にある歴史の古い動物園である。閑散とした駅前が嘘のように、園内から楽しげな笑い声が聞こえてくる。門をくぐるとそこには、様々な木々が生い茂る自然豊かな公園が広がっていた。
4匹のお魚と腹ペコペンギン

頭上にのびた枝葉が、10月の残暑を程よく遮っている。木陰に心地よい風が吹き、笹の葉がサラサラと音を立てて揺れる。
時の流れが止まったかのような穏やかな午後だというのに、私は公園の中を小走りで移動している。目指すのはもちろん「ペンギン舎」。ペンギンランチに遅れるわけにはいかないのだ。

ペンギンへの餌やりを体験できる人気のイベント「ペンギンランチ」は、1日2回(11時30分〜/14時30分〜)行われている。ランチ開始の15分前に到着すると、既に参加者の列ができている。飼育員さんから配られる小魚は全部で4匹・・・さてどの子にあげようか。

ペンギンプールの周りは、魚を手にした人でいっぱいだ。魚のしっぽをつかんだ手を伸ばし、ゆらゆらと揺らしてみる。頭上のごちそうに気がついたペンギンが、じっとこちらを見つめてくる。魚を放り投げると、長い首を伸ばして戦いを制した1羽が「パクッ!」と力強く魚をさらっていく。「ナイスキャッチ!」思わずそう叫びたくなるほどに、ペンギンは魚が落ちてくる軌道を読み、そのくちばしは正確に獲物をとらえる。そして頭から丸呑みするのだ。
野生のペンギンたちは、非常に優秀なハンターだ。水の中を秒速1.9メートルの早さで泳ぎながら、的確に餌を捕まえていくという。そんなハンティングの一端を垣間みた気がして、餌やり体験は興奮のうちに幕を閉じた。
サギとペンギン

ペンギン舎の近くにある大きなボードに、ペンギンがずらりと整列している。羽村市動物公園にいるのは、右から8番目に描かれている「フンボルトペンギン」。
とすると、ペンギン舎の中にいる彼は一体何者なのか。

鳥の正体は「ゴイサギ」という名の野鳥。胸元の白、背面の濃い色、足がほっそりと長いことを除けば、どことなくペンギンに似ている。“ なんだ、詐欺じゃん・・・! ”とつまらないシャレを飛ばそうとした矢先にふと、サギの足の異変に気がついた。片方の足のつま先がないのだ。
「あぁ」と小さくため息が漏れる。この鳥は生き抜くために、ペンギンの餌やりを待っているのか。
しかし、餌やりが始まってしばらくしても、サギはじっとして動かない。もう少し前にいけばおこぼれにありつけそうになのに、ペンギンたちから少し離れた場所で、空を舞う魚を見つめている。時々、餌の軌道にあわせて少し首を動かす。それでも決して奪おうとはしない。結局、魚がサギの足下に飛んでくることはなかった。
しばらくしてサギは、プールの頭上を覆う桜の木の幹に移動した。片足にも関わらず、器用にバランスをとっている。サギはじっとプールを見下ろす。
控えめだけど諦めない、それが野生のたくましさなのだろうか。
首を長くしてお魚を待つペンギンと孤軍奮闘するサギ、その両方にそっとエール送った。
Text:水鳥 るみ(フリーランスライター)
羽村市動物公園(東京都)の基本情報
●公式ホームページ
http://www.t-net.ne.jp/~hamura-z/
●ペンギンの種類
フンボルトペンギン
●入場料
4歳〜15歳未満:50円(4歳未満は無料)
15歳~65歳未満:300円
ファミリーパスポート(家族6人1年間):2,500円
●開館時間
3月〜10月:9:00~16:30
11月〜2月:9:00~16:00
詳しくは公式サイトへ >>
●アクセス
〒205-0012
東京都羽村市羽4122番地