南極のペンギン丨高倉健著【おすすめの本】

      2016/10/24

銀幕の大スター 高倉健とペンギン

南極のペンギン (集英社文庫)

2014年の初冬、日本映画を代表する俳優が静かにこの世を去った。その生涯に通算で205本もの映画に出演した銀幕の大スター「高倉健」。様々なメディアが彼の功績を讃え、日本中が彼の死を悼んだ。
私が彼の絵本に出会ったのは、そんな時のことだった。

本のタイトルは「南極のペンギン」。

彼が生前に書き残したのは、わずか数冊のエッセイと絵本のみ。そのタイトルの1つに、ペンギンが選ばれている。ふつふつと湧き上がる興味を抑えきれず、私は本を手にレジへと進んだ。

“極”を股にかける俳優・高倉健

ここ数十年の間に、交通網は世界規模で発達した。自然が人の侵入を阻み、未開の地と呼ばれたような場所でさえ、近年は観光スポットへと変貌を遂げつつある。極地についても例外ではなく、南極だけに限定しても年間2万〜3万人が訪れるという。とはいえ、北極と南極の2つの果てに到達した人は、まだまだ少ないのが現実だろう。

驚くことに今から約30年ほど前、経った半年という短い期間に、高倉健はそれをやってのけていた。南極大陸に残された兄弟犬タロ・ジロと越冬隊員の1年後の再会を描いた「南極物語」。北極を中心に撮影を行う一方、少人数で南極ロケを実施し、撮影期間3年余をかけ描いた大作映画である。

実のところ、高倉健の著書を読むまで、映画のロケ地は北海道あたりの雪原だろうとたかをくくっていた。ロケの様子について、彼は「南極のペンギン」の中で次のように回想している。

波の形のまま凍ったような氷がつらなっている。そんな氷原が、いけどもいけども続く。
犬ゾリ隊のコリン隊長が、ピッケルで氷原をたたきながら前にすすむ。彼は腰に、三メートルくらいある長いサオをさしている。クレバス(氷山の割れ目)に落ちても、このサオが支えになって、転落しないですむようにだ。
コリン隊長は慎重に、少しずつ前にすすむ。そのあとに、氷上車と犬ゾリがつづく。ぼくは犬ゾリをおし、氷のうえを歩いていた。ここは南極大陸だ。
出展:「南極のペンギン」/高倉健 著

この後、ロケ隊は激しいブリザードに遭遇し、生死の境を彷徨うこととなる。高倉健が実際に体験した南極の厳しさ、厳しい自然の中でこそ際立つ人の温もりについては、ぜひ本編でお楽しみいただきたい。

しかし、命の危険を犯してまで彼らが撮りたかった映像とは何なのか。

北海道で撮れず、北極でも撮れず、南極でしか撮れない映像。それこそが、ペンギンである。
映画によりリアリティーを持たせるためか、もしくは監督の強いこだわりか、いずれにせよ30年前のペンギンの姿は、映画「南極物語」に収められることとなった。無類のペンギン好きとしては、両手万歳なのである。

映画「南極物語」のペンギンの種類

「南極のペンギン」で高倉健は、子供を産むために集まってきたペンギンの群れについて記載している。
南極大陸に生息するペンギンは数種いるが、南極で子供を生み、育てるのは2種しかいない。その2種とは、皇帝ペンギンと、アデリーペンギンである。ロケ隊が出会ったペンギンについては、次のように描写されている。

だが、ぼくらをおそれるようすはなかった。すぐに無視して、オスがメスのまわりに石を積みあげはじめた。夫婦で巣作りをしているらしい。
出展:「南極のペンギン」/高倉健 著

ペンギンは種別に、子育ての方法が異なる。南極で子育てをするペンギンのうち、皇帝ペンギンは巣を持たない。足の上に卵を乗せ、羽毛で覆われたお腹のだぶついた皮膚を卵の上に被せて温める。
高倉健が南極で出会ったのは、巣を作るペンギン、つまりアデリーペンギンということになる。
「南極物語」の映画には、数えきれないほどのアデリーペンギンが出てくる。撮影隊が命がけで撮ったペンギンたちである。

アデリーペンギンを観察した高倉健は、ふと「人間にそっくりだ・・・」思ったそうだ。
私たちがペンギンに親しみを感じる理由は、ここにあるのかもしれない。ペンギンはみな同じに見えるが、1羽1羽個性がある。陸上を2足歩行で移動し、すぐによろけたり転んだりする。それでもめげない。鳥なのに“飛べない”という最強のハンデを背負いながら、厳しい環境へ順応し、子孫を繁栄させている。

鳥のなかでもその人間臭さで、他を圧倒するペンギン。日本を代表する映画スターでありながら、その人間味溢れるエピソードや泥臭さで知られる高倉健。高倉健は、ペンギンに自分の姿を重ね合わせたのかもしれない。

 - ペンギン本

        

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