ペンギンハイウェイ | 森見登美彦【おすすめの本】

      2016/10/24

ペンギン・ハイウェイ

ペンギン・ハイウェイ (角川文庫)

お話の舞台になるのは、開拓が進む郊外の街。なだらかに続く丘に小さな家が建ち並び、ショッピングセンターや塾や歯医者がある平凡な街で、ある日珍しい事件が起きる。自然災害ではないし、殺人でもない。通学中の子ども達の前に、突然本物のペンギンが出現したのだ。

「夜は短し歩けよ乙女」や「有頂天家族」などの著書で、森見登美彦氏の名を知っている方も多いかもしれない。そんな森見氏がペンギンを題材に書いた小説、それが「ペンギンハイウェイ」。
森見氏の小説では、大学生や社会人になりたての男性が主役になることが多いが、この小説は違う。主役は、小学4年生の男の子「アオヤマ君」だ。彼は毎日たくさんの研究をし、1日の時間が足りなくなるほど本を読む。そして父が教えてくれた方法で、日々の研究の成果を1冊のノートにまとめていく。まだ見ぬ世界を見て、知らない世界を知るために、アオヤマ君は自分自身に誓って言う。

他人に負けるのは恥ずかしいことではないが、昨日の自分に負けるのは恥ずかしいことだ。一日、一日、ぼくは世界について学んで、昨日の自分よりもえらくなる。
出展:ペンギンハイウェイ/森見登美彦 著

彼の研究対象は幅広い。教室を牛耳る“スズキ君帝国”について、妹のわがまま記録について、そして”お姉さん”についてだ。お姉さんは、アオヤマ君が通う歯医者さんで働くミステリアスな女の人で、彼はお姉さんのおっぱいについて考えたり、眺めたりするのが大好きで仕方ない。お姉さんのおっぱいに強く惹かれる理由もまた、彼の重要な研究対象である。

そんな研究熱心な少年の前に、ペンギンが姿を表した。住宅地のど真ん中に、何十匹も群れをなしてペンギンが歩いている。ここにまた1つ、彼の研究対象が追加された。アオヤマくんは目撃したペンギンをスケッチに書き残す。後で調べてみると、そのペンギンは、学名を「ピゴスケリス・アデリアエ」、つまり「アデリーペンギン」であることが分かった。

ペンギンの目撃情報は後を断たない。道を一列になって歩いているところを車にはねられたり、民家の犬に噛み付かれたりしているという。ペンギンたちの身体は頑丈なようで、怪我などは見受けられない。不思議なのは、事件の後、1羽残らず消滅してしまうことだ。
ペンギンたちはどこから来て、どこへ行くのか。アオヤマ君はその研究を“ペンギン・ハイウェイ研究”と名付けた。ペンギンハイウェイとは、ペンギンたちが海から陸に上がるときに決まってたどるルートのことである。

ある日、アオヤマ君とその友人は別の研究のために、丘の周辺の未開の森を探索しに出かけていく。そして森の入り口で、列を成す沢山のペンギンたちを発見する。ペンギンたちが通る「ペンギンハイウェイ」のその先で、少年が見つけたものとは一体・・・?

私が森見氏の小説で泣いたのは、これが初めてである。ペンギン好きな人もそうでない人も是非、森見登美彦氏の素敵なSFワールドを堪能していただきたい。

さて、これから「ペンギンハイウェイ」を読もうとしている方の中で、ペンギンについて良く知らないという方は、是非アデリーペンギンの可愛い特徴について事前に知って頂きたい。未知なるものを研究し続けるアオヤマ君のように。

ーよちよちと歩いて、お姉さんの足に衝突しておろおろしているペンギン。
ー翼をパタパタさせて走ってくるペンギン。
ーお姉さんの後を追うように大群で押し寄せるペンギン。

ペンギンについて知れば知るほどに、小説に登場するペンギンの様子が目に浮かぶこと間違いなしだ。

郵便少年(ほっと文庫:ペンギン・ハイウェイの1年前の物語)

ペンギンハイウェイを読んでしばらくすると、私はもう一度アオヤマ君に会いたくなった。彼はどんな大人になったのだろう、彼は彼自身に立てた誓い全てを守ったのだろうか。彼は大切な人に会えたのだろうか。

残念ではあるが、ペンギンハイウェイの続編が無い以上、彼の未来について知る手だてはない。しかし、調べを進めるうちに、過去の彼について書かれた短いストーリーを発見した。「ペンギン・ハイウェイ」から遡ること1年前の、小学3年生のアオヤマ君についてである。

彼の記録は、「郵便少年」という書き下ろしの作品に収められている。ページ数にして30ページほどの短編小説は、バンダイが2011年に企画した「ほっと文庫」というシリーズの1つである。入浴剤と小説がセットになって、おもちゃ売り場やドラッグストアなどで販売されたそうだ。
一般には出回っておらず、Amazonでは私が購入した当時で2000円以上の価格がついていた。しかし、アオヤマ君にもう一度会いたいという願いは日増しに大きくなる。ついに私は購入ボタンを押し、可愛い紙のパッケージに入った入浴剤と小説が、私の手元に届いたのである。

ほっと文庫「郵便少年」のセット内容

ほっと文庫「郵便少年」のセット内容

小学校3年生のアオヤマ君は、勉強熱心な小学生だった。4年生の時とは違うのは、ノートを持っていなかったこと。そのため日々の勉強の成果は、頭の中に書き留めていた。この郵便少年は、アオヤマくんがノートを持つようになった4年生以降に、3年生の大切な思い出を回想した手記である。

ある日曜の朝のこと。アオヤマくんは、みがきたてのりんごみたいにつやつや光る赤いポストに出会う。

どこまででも届くなんて、郵便とはなんてすてきなんだろうか! とぼくは思った。それが「郵便」の研究を始めたきっかけである。
出展:「郵便少年」/森見登美彦 著

好奇心旺盛の彼は、ポストを眺めているだけでは飽き足らない。自分で郵便局をひらき、郵便を届けることを決心する。そんな彼に初めて郵便配達を依頼してくれたのは、彼と同じ歯医者に通うおばあさんだった。「ペンギン・ハイウェイ」でもおなじみの歯医者さんが、ここに登場する。手紙の配達を通じて、彼の人間関係は少しずつ広がっていく。

ある日彼は、おばあさんから自分宛に一通の手紙を受け取る。
時に手紙には、言葉にならない想いや感情が同封される。問題はその手紙を、相手の気持ちを、きちんと受け止められるかということだ。彼は手紙と誠実に向き合い、行動を起こす。そんな日々の延長に、「小学4年生のアオヤマ君」が生まれたのだろう。

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