午前10時、淡島へと渡る船の乗り場にはすでに先客がある。
彼らと私では、島に向かう目的が違うようだ。あわしまマリンパークは、沼津市を舞台にした「ラブライブ!サンシャイン!!」の聖地でもあるらしい。
私はラブライバーではないが、彼らの情熱と私の情熱は相通ずるものがある。私は、極度のペンギンラバーである。
さらに白状すれば、「無人島」という響きに無条件にロマンを感じてしまうタイプだ。無人島の水族館にペンギンがいると聞いて、胸が高鳴らないはずがない。
餌を待ちわびて
およそ700万年前に海底火山として誕生した淡島は、周囲約2.5キロメートルの小さな島だ。歩いて30分〜40分で島をぐるりと一周できる。
海と山の間の小道を風が通り抜ける。対岸からは船で3分しか離れていないものの、心なしか本土とは空気が違う。潮と土と草木の匂いがする。
音のなる方に魚あり!
島の道なりに歩けば、その道中で生き物たちと出会う。フンボルトペンギンが暮らす「ペンギンプール」は、館内入り口のすぐ脇にある。
ペンギンたちはのんびりしているように見えるが、決してボーっと立っているわけではない。その証拠に、ガサガサと音が聞こえると、一斉に音のする方に振り向く。
ペンギンの耳はどこにあるのかと、疑問に思う方がいるかもしれない。ペンギンの耳は、目尻の斜め下にある小さな穴で、普段は毛の中に隠れていて見えない。羽が抜け落ちる換羽の時期に、運が良ければ見ることができるだろう。
アピール合戦を制し、センターを確保せよ!
ペンギンがガサガサという音に反応したのは、飼育員さんの登場を待っていたからである。飼育員さんの登場は、すなわちお魚の登場を意味する。
午後12時15分、飼育員のお姉さんの後について、ペンギンたちがプールの外へと出てきた。ここからは、ラブライバーもびっくりの熾烈なポジション争いがある。
「ペンギンにごはん」の参加者には、数匹のお魚が配られる。参加者は2箇所に設置されたバケツからそれぞれ魚をとり、どのペンギンにあげようかと思案する。
ペンギンたちは目を輝かせ、首を長くしてアピールする。頭一つ抜け出して、お魚をキャッチしようと必死なのだ。
新参者の子ペンギンは、なかなか前列に混ざることができない。みんなの周りをうろうろし、成鳥が咥えた魚を引っ張って、ようやく尻尾半分を奪ったりしている。「推しキャラ」ならぬ「推しペン」になるのは、そう簡単ではないのだ。
桜と舞うペンギンダンス
もう1種類のペンギンに会うため、「いきもの広場」へと移動した。ここには南アフリカを故郷にもつケープペンギンがいる。
みなが一様に木陰で涼んでいる中、若い1羽のペンギンが不思議な動きをしている。独特なステップを踏みながら、くるりくるりと回転し、何かを捕まえようと躍起になっている。よく見るとそれは桜の花びらだった。
満開を過ぎた桜は風に吹かれて舞い、散り、落ちて伏し、ペンギンは花びらを追いかけてダンスする。
何度目かの挑戦で、ペンギンは花びらをキャッチした。花びらは、ペンギンのくちばしの先端にぴたりと張り付いて離れない。
サーッと強い風が吹いて、ペンギンの興味は別の花びらに移ったようだ。
番外編:あわしまマリンパークのおすすめ展示
ひとえに水族館といっても、1つとして同じものはない。選んだ生き物に、その展示方法に、水族館の個性が現れる。最後に、あわしまマリンパークで特に印象的だった3つの展示をご紹介しよう。
人懐っこいエイ
こんなにも可愛いエイに出会ったのは初めてだ。私が水槽に近づいた瞬間、「ピチョンピチョン」と音を立てながら一斉に集まってきた。
しかし、餌を持っていないことがバレると、すぐに私の人気は失墜した。意地になった私は一度その場を離れ、さも別人かのように再び水槽の前に立った。エイたちは水面から顔を出し、訝しげにこちらを伺っていた。
日本一のカエル館
覗き込めばカエル、泳ぐのもカエル。緑、青、黒、茶…色も大小も様々なカエルたちがここにいる。あわしまマリンパークの「かえる館」は、カエルの展示種数日本一を誇る施設である。
沢山のカエルに囲まれて、ふと遠い昔の記憶がよみがえる。
私がまだ幼かった頃、雨上がりの庭にできた水たまりに、カエルが卵を産み付けたものだった。段々と水が干上がっていくにつれ、うごめく黒い塊が鮮明になった。干からびる運命のオタマジャクシをどうしても見過ごせなかった私は、水がなくなってしまう前に、彼らをバケツにすくい上げ川に放流した。道路にカエルが跳ねていれば、車にひかれないよう土の上に移動してあげた。
年配の方や、田舎に住んだことのある方は、似たような経験をお持ちではないだろうか。
いつの間にか都会暮らしが長くなり、もはや都心でカエルを目にすることはない。それでも、自然に対する愛情だけは忘れまいと自分の胸に誓うのだ。
のびのびと泳ぐイルカ
海の一部を仕切ったプールで、イルカのショーが開催される。彼らはバーの上に跳び上がり、輪を拾い集め、尾を振ったりする。何度みてもどこでみても、「芸達者だなぁ」と感心してしまう。
しかし、イルカの魅力はその賢さだけに留まらない。あわしまマリンパークでは、自然の海という環境が、彼らの魅力を存分に引き出してくれる。水際で人間を観察しているかのような人懐っこさや、その柔和な表情にありのままの魅力がある。
生き物の日常に触れること、それは私にとって最高のエンターテイメントなのである。
Text:水鳥 るみ(フリーランスライター)
あわしまマリンパーク(静岡県)の基本情報
下記の情報は、2017年4月現在の情報です。
●ホームページ
http://www.marinepark.jp/
●ペンギンの種類
・フンボルトペンギン
・ケープペンギン
●営業時間
チケットオープン:9:30~17:00 (最終入館は15:30)
●船舶運航
9:35〜16:50
●入場料金
大人(中学生以上):1,800円
4才~小学生:900円
【あわしまマリンパックについて】
沼津駅を利用する場合は、バスの往復乗車券と入場料がセットになった「あわしまマリンパック」がお得です!
・大人:2,130円 (通常3,020円)
・子供:1,070円 (通常1,520円)
●アクセス
〒410-0221 静岡県沼津市内浦重寺186