写真家ポール・ニックレンが撮る「海を飛ぶ皇帝ペンギン」|ナショナル ジオグラフィック
2016/11/13
目次
ファインダー越しに見る皇帝ペンギンの世界
ナショナル ジオグラフィックの大御所写真家「ポール・ニックレン」。皇帝ペンギンの写真を撮らせて、彼の右に出る者はいない。最も素晴らしいのは、南極の海中を飛ぶように泳ぐ皇帝ペンギンの写真だ。
水中から氷上へ、加速する皇帝ペンギン
まずは、こちらの写真をご覧いただきたい。海中から氷上へ飛び上がろうとする皇帝ペンギンの写真である。
海を飛ぶコウテイペンギン | ナショナル ジオグラフィック(NATIONAL GEOGRAPHIC) 日本版公式サイト via kwout
写真が趣味の方は特に、この写真の凄さがお分かりになるだろう。このアングルで写真を撮る為には、写真家は水面にもぐってでカメラを構える必要がある。撮影場所は、光量が乏しく寒さの厳しい南極の氷の下である。
ナショナル ジオグラフィック紙面の解説によると、皇帝ペンギンは水面から飛び上がる瞬間に最も加速するそうだ。通常でも秒速2mで泳ぐというから驚きだが、最高速度は秒速5.5mにもなるという。水中での暗さと寒さに加え、対象物が凄まじいスピードで移動するとなれば、この写真がいかに貴重なものか想像に難くないだろう。
ポール・ニックレンが語るところによれば、氷のすぐ真下には、皇帝ペンギンの天敵「ヒョウアザラシ」が待ち構えているそうだ。皇帝ペンギンが水面から勢いよく飛び出すのは、天敵を振り切って無事に我が家へと帰るためなのだ。
天敵を警戒して、皇帝ペンギンは海の近くにコロニーを作らない。コロニーではお腹を空かせた皇帝ペンギンのヒナたちが、親鳥の帰りを首を長くして待っている。水から飛び出る瞬間に、命尽きる訳にはいかないのだ。
氷の上を飛ぶ皇帝ペンギン
ポール・ニックレンは、陸上での写真の撮り方も非常にユニークだ。こちらは水中から飛び出てきたペンギンを、氷上で捉えた写真。この時彼は、氷と風の状況を読み、氷の上に寝転んでひたすらペンギンを待っていたそうだ。その手はすっかりかじかんだという。
海を飛ぶコウテイペンギン | ナショナル ジオグラフィック(NATIONAL GEOGRAPHIC) 日本版公式サイト via kwout
ナショナル ジオグラッフィクのインタビューで、彼は当時を回想して次のように語っている。
インタビュアー:ペンギンは大きいですね。ぶつかったら痛そうです。
ニックレン:一度、頭に当たりました。1羽がコースを外れて、頭の上に落ちてきたんです。体重30キロほどの雄で、何事もなかったかのように、立ち上がって歩き去っていきましたよ。こちらはかなり痛かったものの、けがはしませんでした。ヒョウアザラシにもぶつかられましたね。水中から飛び出してきて、ペンギンをボーリングのピンのように体当たりして倒すんです。
皇帝ペンギンの氷上へのジャンプは、その高さ2mにもなるという。この至近距離での撮影とくれば、頭上からペンギンが降ってくるのも頷ける。
ナショナル ジオグラフィックの記事によれば、皇帝ペンギンが水中で加速できるのは、羽毛から放出する空気と関係があるそうだ。確かにポール・ニックレンの水中写真からも、皇帝ペンギンのお尻から筋のように微小な泡が出ているのがわかる。この泡が皇帝ペンギンの体を包むことで、水との摩擦で生じる抵抗が小さくなるのだという。
詳しい研究内容については、ポール・ニックレンの写真が表紙の「ナショナル ジオグラフィック 海を飛ぶペンギン」の記事をご覧いただきたい。
写真家ポール・ニックレンが語る南極(TEDトーク)
彼が写真家になったいきさつや、撮影での驚くべき出来事、動物たちとの奇跡的な出会いについては、ポール・ニックレン自らが、TEDのスピーチで語っている。写真を撮る事は、動物たちと深く向き合い、会話することなのだと気づかされる素晴らしいスピーチだ。
ペンギン好きとして胸の痛む写真もあるが、ここはあえてご紹介しよう。南極で暮す生き物のリアルが、彼の体験の中にあるからだ。
TEDトーク「氷に閉ざされた不思議の国の話」
私が極地専門の写真家になるまでの 長い道のりが始まったのは 4歳の時でした。
家族でカナダ南部から グリーンランドに近い バフィン島北部へと引っ越したのです。そこでイヌイットとともに暮らしました。200人ほどのイヌイットの集落の中で イヌイットでないのは3家族だけでした。その村にテレビはなく 当然コンピュータもなく ラジオや電話さえありませんでした。やることと言えば イヌイットと外で遊ぶことだけです。雪と氷が私の砂場であり イヌイットが私の教師でした。そうして私はこの極地という世界に 心から惹かれるようになって いつか この場所のことを伝え この場所を守るための仕事をしようと 心に決めたのです。
出典:TED「氷に閉ざされた不思議の国の話」より
ポール・ニックレンのプロフィール
ポール・ニックリン 「氷に閉ざされた不思議の国の話」 | Talk Video | TED.com via kwout
2012 年ワイルドライフ・フォトグラファー・オブ・ザ・イヤー・コンテストの大賞、2013 年世界報道写真コンテスト「自然」の部・組写真1 位を獲得。国際環境保護写真家連盟(iLCP)シニア・フェローでもあり、現在、最も注目されている自然写真家の一人。
●ポール・ニックレン公式Web
http://www.paulnicklen.com/
●ポール・ニックレンのインスタグラム
皇帝ペンギンの写真はもちろん、彼が世界各国で撮影した写真や動画がアップロードされている。
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